「ほら、これあげるよ。女の子ってこういうの、好きだろ?」

あぁ、あんたもか。
差し出されたブランド物のバッグをもったいない精神で受け取りながら、私は愛想笑いを浮かべた。



「更科さんって…なんか変わってんよね。」

「だよねー、何考えてるかイマイチ分かんないっつーかさ…チズもそう思わない?」

「え、あー…確かにね。」

教室の隅、心ここにあらずとでもいうような表情で窓の外に目をやる黒髪の少女に横目を向ける。
一見地味に見える彼女の纏う気怠さと無感情な瞳、どこか感じる静かな色気に、ふとした瞬間目を向けてしまう人が少なくないことを、本人は気付いているのだろうか。
それに…そうだ、あの栗色の髪の少女も。妙に浮世離れした雰囲気は妬みと羨望の眼差しを引き寄せては強烈な印象を与えていく。
それは…そう、急にストロボの光が目の前で放たれた様に。

「よし、セーフ!」

「おー颯太、はよ。」

「おう、はよー!…よう瞳子、おはよ。」

「…おはよう。」

そして、別の意味で視線を集めるのが彼。
誰とでも、先ほど一線を置かれている彼女たちにすらも平等に接する彼に人が集まるのは自然の流れだ。
実際に目の前にしていなくても、明るい雰囲気を人に伝染させていく。人並みに例えるなら太陽、とでもいうべきだろうか。…見つめても目は傷めないけど。

「…チズ?どした?大丈夫?」

「………あ、ごめんごめん。ちょっとぼーっとしちゃってた。」

「こら、もうすぐ授業だろ、ちゃんと起きろっ!」

「あは、普通に寝るかも。」

「あたしもー。」

別に、彼等の様になりたいなんて思ってるわけじゃない。
ただ、どこにでもいる女子高校生、それだけの自分が妙に薄っぺらいもののように思えて。…少しでも人混みに混ざってしまえば、もう誰も私を見つけられないのではないかという、小さな被害妄想まで考えたりして。
もし「女子高校生」というレッテルを外してしまったとしたら、私の価値は、ちゃんとあるのだろうか。



「…なんで?」

「ごめん。」

「ちょ、待ってよ。いきなりどうしたんだよ!」

「理由は言う気ない。さよなら。」

踵を返し元きた道を引き返す。
通り過ぎる風が妙に首筋に滲みて、上で纏めていた髪を解いた。
周りに纏う人混み。きっと今別れを告げてきた彼に、私を見つけることは、出来ない。