つまんねぇ。
濃いオレンジに染まった人気のない公園を、そんな言葉で頭をいっぱいにしながら男が歩く。
傍らの片方の少し派手な女性は、そんな男に下らない話題で話しかけては精一杯媚びたような笑みを浮かべていた。
…つまんねぇ。
「なぁ。」
「うん?なぁにぃ?」
「お前もう要らね。」
「……え?」
「元々好きでもなんでもねぇし、飽きた。」
「いきなり何…」
「女の癖にあそこまで迫ってくるやつも珍しかったから少しは面白いかと思ったが、期待はずれだった。もう用はねぇよ、さっさと帰れ。」
「…っ、最低!」
さっきまでの粘っこい猫なで声が嘘のような大声を響かせながら、遠ざかっていく背中を何の情も映さぬ瞳が見送る。
ジーンズのポケットから原型が留まっていない煙草の箱を取り出せば少し曲がった一本に火をつけゆっくりと紫煙を吐き出し、ふいに独り言のような声量で後方へと問いかけた。
「…で?いつから見てた訳?」
「あ、やっぱり気付いてたんだ。」
くすくす、後方のブランコに腰掛けた少女が応える。
小さくも確りと耳に残る笑みにゴシック系の服。殆ど動いていない程度にゆらゆらと揺れる様も相まって、どこと無く浮世離れしたような、人間味に欠けた雰囲気を纏っている。
「また振ったの?」
「だーってあいつ面倒臭くなってきたんだもーん。」
「ふふ、相変わらず悪い男ね。」
「あぁ、お褒めに預かり光栄ですよん。…ところでお前今から暇?」
にやり、体を九十度ほど振り向き何やら含ませた表情で口角を上げれば視線をあわせる少女の表情にも貼りつけたような笑みが増す。
「なぁに、…買ってくれるの?」
「…は、お前じゃ無理だな。生憎ロリコンでもなけりゃ、美人に興味のない性癖なもんでね。」
「あらそう、じゃあどうして?」
「折角これから飯食う予定だったのに無しになったからさぁ、ちょっと買われたと思ってオジサンに付き合ってくんね?あ、もちろん奢るし。」
「…いいわよ。」
キィ、独特の音を響かせてブランコが揺れる。東の空から広がりだした色と、こちらに向かってくる少女を視界に入れながら、男は付けていたサングラスを外す。
「つまんねぇ」はどうやらもう脳の片隅にもないようだった。
11/03/05